
話題の「ペルチェ素子」空調服を使ってみた 夏の外仕事に“冷たくなる半導体”で熱中症対策

今年6月から労働安全衛生規則が改正され、特定の環境下での職場における熱中症対策が義務化されました。また、近年の夏の厳しい暑さもあり、再注目されている「空調服」、皆さんは使っていますか?
空調服は前々から普及していますが、30Vといった高い電圧を使用する高速ファンを採用したり、服自体が日傘のような遮熱素材を使用しているものなど、注目の新製品が多数登場しています。今回、特に注目したいのが「ペルチェ素子」という半導体を使用した空調服です。この記事では、実際にペルチェ素子を搭載した空調服を使用してみた感想や製品の情報を掲載していますので、導入を検討している方や企業の皆さん、ぜひ熱中症対策のお役に立てれば嬉しいです。
空調服って意味あるの?
そもそも空調服ってなに?

空調服とは、専用の服に一般的には2つの外気を取り込む電動ファンが搭載されているものです。サイドや背中側にファンを取り付ける穴があり、ファンとバッテリーを服に装着して外気を体側に直接送り込み、扇風機のような形で汗の気化熱で体を冷やします。
一般的に普及しているのはファスナー付きのジャケットタイプで、いわゆるシャカシャカしたポリエステル素材です。ファンが取り付けられている下側から首元に向かって風が抜けるように作られています。建設現場や警備、農業や工場などで使用され、建設現場ではほとんどで着用されています。
冷たくなる半導体「ペルチェ素子」?
近年注目を浴びているのが、「ペルチェ素子」と呼ばれる半導体です。素子に電流を流すことで、片面は冷たく(吸熱)、反対の面は温かく(発熱)なります。電流の向きを変えると吸熱・発熱面が入れ替わります。

吸熱や発熱と言っている通り、仕組みとしては片面の熱をもう一方の面に移動させて、冷たい面と温かい面を作り出しています。シンプルな構造で、なおかつ大きな電力がなくても動作しますが、発熱面を適切にファンやヒートシンクで冷却しないと吸熱効率や素子の破損に繋がるのがデメリットです。
パソコンなどの電子機器の冷却や、空調服業界にもペルチェ素子が普及し始め、ファンにペルチェ素子が搭載されているものや、ペルチェ素子を複数装備した冷却ベストも販売されています。わずか数秒で吸熱・冷たくなります。
熱中症対策に効果はある?

適切に使用することで体温を下げ、熱中症対策に繋がります。ただし、空調服を使用していても完全に熱中症を防げるわけではありませんので、あくまでも空調服は補助的に、水分・塩分補給、涼しい場所でのこまめな休憩をとりましょう。
1枚多く羽織ることになるので、暑苦しく感じるのでは?と思う方もいるでしょう。でも大丈夫です。最新の空調服は、そもそも服自体が熱を遮る素材を使用していたり、薄い生地で作られています。感覚としては、小さい扇風機(ハンディ扇風機の強力版)で常に体に風が当たっているという形です。何もないよりはマシです。外にキンキンのクーラーがあるならそっちの方が良いです(そんなのむりだけど)。
近年増加している熱中症による死亡災害や重症化を防ぐため、2025年6月1日から労働安全衛生法における労働安全衛生規則が改正され、事業者が講ずべき熱中症対策の措置が義務化されました。
具体的には、気温31度以上またはWBGT28度以上の環境下において連続1時間以上または1日4時間以上おこなわれることが見込まれる作業が対象で、大きく分けて次の3つの対応が事業者に義務付けられます。
- 【体制整備】
冷房を備えた休憩場所や直射日光を遮る屋根等の整備、作業時間の短縮や作業中の巡視など - 【手順作成】
労働者の健康状態の確認をはじめ、作業場における緊急連絡網や熱中症の疑いがある場合に必要な措置の実施手順の作成など - 【関係者への周知】
作業場全体で熱中症対策の周知や指導、熱中症の疑いがある場合の措置の実施手順の確認など
対策を怠った場合は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
→詳しくは「職場における熱中症予防情報 - 厚生労働省」をご覧ください。
実際に空調服を使ってみた
選んだ服やファン
空調服は、服・ファン・バッテリーの3つが必要で、全てがセットで販売されているものもありますが、今回は「ペルチェ素子」搭載のファンを試したかったので、服とファンやバッテリーは別々に購入しました。
メーカーが違っても、ほとんどの空調服とファンは互換性があり、取り付けが可能です。

服
空調服は、ワークマンでも取り扱いがあるコーコス信岡の今年の新製品「G4040」、ファンはバッテリーとセットでAmazonで販売されているXinpekeというメーカーの製品を購入しました。空調服G4040の特徴は、遮熱素材で最大-11℃の効果があり、フルハーネス対応、内側に3か所の保冷剤ポケットが備えられています。また、他の服にはない、えり裏(首元のちょっと下)に自社製品の「ペルチェデバイスクーラーユニット」を装着することができ、遮熱素材とファン、クーラーユニットの組み合わせで力強い冷却効果を発揮します。

ファン
ペルチェ素子が搭載されているAmazonで販売されているXinpekeというメーカーのS6という空調服用ファンです。販売ページにはペルチェ素子とは記載されず、半導体冷却となっていますが、ちゃんとペルチェです。ファンの内側(送風側)に金属面があり、スイッチを入れるとその面が冷えます。

モードは弱・中・強で、最大で25時間稼働します。なお、ペルチェは手元のスイッチではなく、それぞれのファンにある個別のスイッチを押す必要があります。ファンを回しただけではペルチェ素子へ電力は供給されません。
ペルチェデバイス
大きなペルチェ素子の金属面があり、保冷材のような形で局所的に周辺温度よりも最大で-20℃冷やすことができます。服と同じコーコス信岡のGP-854という製品です。コーコス製の特定の空調服やウェアにのみ取り付けが可能で、他社製の空調服では使用できません。
今回のG4040には、えり元に専用の「ペルチェリングホール」という部分があるので、そこにデバイスを取り付けます。

服の左右にあるファンとは違い風は出ませんが、けっこうキンキンに冷えたペルチェ素子が保冷剤を体に当てているような感覚で冷やしてくれます。説明している通り、ペルチェ素子は吸熱面と発熱面があり発熱面を適切に冷却する必要があるため、冷却用のファンとヒートシンクが装着されていて、電源を付けると冷却ファンが回転します。
弱・中・強と、強10分間稼働2分停止の繰り返しのゆらぎモードの4つが搭載されていて、弱では周辺より-10℃、強では-20℃程度冷やす性能があります。

ペルチェ素子搭載の空調服ってどう?
実際に使ってみた感想としては、空調服を着用していない時よりも確実に体温を下げる効果があり、特にひんやりとしたペルチェ素子が局所的ではありますが体に触れるので夏の厳しい暑さの中でも涼しさを感じます。
まず、空調服としての感想ですが、汗を気化させて体温を下げるという仕組みなので、確かに涼しい。個人差はありますが、真夏でも汗をかかずに作業することもできます。
ペルチェ素子の感想ですが、左右のファンに搭載されているペルチェは弱・中・強のモードによって吸熱率も違い、中でやや冷たい、強で結露する冷たさ、弱ではほとんど冷えません。体に密着するような状況だとひんやりします。エアコンのように冷たい風が出るわけではないですが、ファン近くの空間は若干ひんやりします。首元のペルチェデバイスは体に触れると結構冷たいです。保冷剤を当てているような感覚で、徐々に体温を下げてくれます。ペルチェを体験したことがないならおすすめ。エアコンのような劇的な変化を期待するのはNGです。
ペルチェは、溶けずに持続する保冷剤として考えるのが無難です。
日傘と同じような遮熱素材を使用しているということもあり、太陽の下でもそこまでの直接的な暑さは感じません。生地は薄めのシャカシャカ系、空調服なので仕方ないですがファンを付けずにただ着ているだけだと暑いです。
内側に保冷剤を入れるポケットがあったり、外側にケーブルを通す穴があり、チャックを開けなくてもスイッチ操作ができるようにすることも可能、洗濯もOKで特にこれといった不満な点はありません。
3.85V換算で41400mAhの大容量バッテリーとペルチェ搭載ファンのセットで市場の中では低価格帯にあるため高評価です。5枚羽で強モードでも比較的静かです。USB接続なので、他のモバイルバッテリーでも動作します。
実際に使用してみて中モードでペルチェオンが最適。充電できる環境ならば強のペルチェオンが最強。ペルチェが手元ではなくファンに個別で設けられたスイッチを操作する必要があるのは少し面倒。このあと記載する通り、バッテリーの安全装置が作動する良いのか悪いのか、いずれにせよ不便な症状が発生するため気になる。安全装置なんて中華製なのにしっかりしていると思ったのは内緒です。
これぞペルチェといったユニークな製品。素子の冷却方法も考えられていてモードの多様さや過負荷時の異常監視システム搭載なのがポイント高い。また、電源をオフにすると1分間冷却運転をするので素子にも優しい。
排熱が熱いといえば熱いが、首元の大動脈をペルチェの力で冷やしてくれる。ファンだけでは物足りないという人にはおすすめ。厚手のTシャツを着ているとあまり冷たさを感じない。結構冷たくなるので、体調が悪いときの使用や肌への影響に注意。
~この記事と同じ構成をする方へ~
S6ファンとペルチェデバイスを、S6ファンセットのバッテリーで同時に接続して使用する場合、バッテリーの出力低下が原因で安全装置が働き、始動して間もなく電源が切れ、再度電源を入れる必要がある場合が発生します。また、ファンとデバイスを同時に使用していて、デバイスの電源を切るとファンも一緒に電源が切れる症状が発生します。(メーカーに確認済み・初期不良ではなく、安全装置作動によるものであるとのこと)
バッテリー自体はType-Aのポートが2つあり、同時出力が可能ですが、ファンとデバイスを同時に使用すると起動時の負荷が起因となる症状が発生します。ただし、この症状は起動時のみで、それ以外ではファン・デバイスともに同時接続で強モードでも問題なく動作します。
対処方法としては、ペルチェデバイスの電源を入れてからファンの電源を入れると問題ありません。デバイスを切るとファンも一緒に切れる症状については、デバイス用に別のバッテリーを使用するか、そういう物として使うしかありません。

気になるバッテリーの容量は
今回使用した製品は、他の製品よりも大容量な41400mAhのバッテリーを採用し、USB Type-Aの出力ポートが2つあるため、ファンとコーコスのペルチェクーラーを1つのバッテリーで同時に使用することができます。メーカー公称値を基に計算した連続稼働時間は次の表の通りです。
なお、気温や細かな動作条件により稼働時間は異なるため、参考程度にご覧ください。
動作条件 | 弱 | 中 | 強 |
---|---|---|---|
ファン側ペルチェオフ (クーラーユニットオフ) | 25時間 | 24時間 | 22時間 |
ファン側ペルチェオン (クーラーユニットオフ) | 23.5時間 | 21時間 | 8時間 |
ファン側ペルチェオフ (クーラーユニットオン) | 18.3時間 | 17時間 | 14.8時間 |
ファン側ペルチェオン (クーラーユニットオン) | 17.5時間 | 15.4時間 | 6.8時間 |
使用した製品
この記事で紹介している製品は次の3つです。それぞれ、Amazonから購入できます。